【5月22日イベントレポート】「助けて」と言えない人を支える。相談への壁を乗り越える工夫とは。

生活課題解決に必要な支援が届かない人に支援をとどける「声なき声」プロジェクトのイベントを5月22日に開催しました。

5月末より、全国の支援機関を対象に「支援をとどけるための工夫」についてアンケートとインタビュー調査を実施します。

今回は調査開始にあたってのキックオフイベントを開催いたしました。

当日はホームレス問題に取り組むビッグイシュー基金様と、妊娠に関する相談支援を行うにんしんSOS東京様にご登壇頂き、会場に集まった約40名で「なぜ若者が支援につながらないのか」を一緒に考える貴重な時間になりました。

「声なき声」とは何なのか?「支援が届かない若者」とは?

当日はイベントを主催したOVAの伊藤より、イベントの趣旨のご説明を行いました。

OVAは2013年より、自殺に関することを検索した人に広告を表示し、相談支援を行っています。従来の支援につながりにくかった若者から4年間で600件以上の相談を受け付けてきました。その中で次第に問題意識を持つようになりました。

それは、「自殺を考えるほど追い詰められる前に周りの人に相談できていれば、自殺を考えるほどまで追い込まれなかったのでは・・・。」というものです。OVAが受け付ける相談のほとんどが、「誰にも助けを求められなかった」「初めて死にたいことを話せた」といった方たちです。

日本で自殺未遂をされる方は年間約53万人いるという推計があります。「死にたい」の検索数が月間20万回以上行われていることを考えると、「追い詰められているが周囲に助けがない」方が自殺の分野だけで膨大にいることが想定されます。

周りに言えない「助けて」に支援を届ける。「声なき声」プロジェクト

追い詰められているが周囲に助けを求められない方は、自殺の分野だけでなく、生活困窮、性、労働、障がいなど様々な分野に存在すると考えられます。

OVAでは、この問題を当事者の援助要請能力(助けてという力)だけでなく、社会の偏見や支援者の積極的な情報発信が足りないなど、社会的な問題が大きいと考えています。追い詰められているが自分から周囲に「助けて」と言えない若者がいることを認識し、そのような方たちを積極的に探して支援を届けていくことが必要です。

このプロジェクトでは、すでに行われている「積極的に探して支援を届ける」取り組みを全国で調査し、その内容を分析することで、誰もが使える体系的な知識にして全国に広めていきます。

既存の支援機関が「積極的に探して支援を届ける」ことを効果的にできるようにします。

若者ホームレス問題を「発見」したビッグイシュー基金

今回は、積極的に探して支援を届けることを実践している認定NPO法人ビッグイシュー基金から佐野様に、実際の取り組みについてお話頂きました。

ビッグイシュー基金は、ホームレス状態の方が販売者となって雑誌販売を行う有限会社ビッグイシューが母体となって2007年に設立され、ホームレス状態にある方へ自立支援プログラムの提供を行っています。

普段から、夜回りや炊き出しで情報提供を行っていましたが、2007年ごろから雑誌「ビッグイシュー」の販売登録希望者の年齢が急速に若年化したことから変化を感じ取ったそうです。

そんな中、2008年秋のリーマンショックを皮切りに、世界的金融危機が一気に顕在化し、日本でも企業の倒産や非正規雇用者の雇止めなどによる失業者が大量に出ました。それにより、若い人たちでさえも、仕事と住まいを同時に失うなど、路上生活を余儀なくされる状況が明らかになったといいます。

そこで、今後の支援あり方を考えるため、2009年に40歳未満のホームレスの方50名にインタビュー調査を行いました。また、その結果をもとに「若者ホームレス白書」を発行し、社会問題として可視化しました。

※若者ホームレス白書 http://www.bigissue.or.jp/pdf/wakamono.pdf

その後、「若者をホームレスにしないために」というテーマで、引きこもりの若者を支援する団体や障がいを持つ人たちの自立支援、児童養護施設出身者の人たちの支援など、「社会的な不利・困難を抱えやすい(ホームレスになるリスクが高い)若者」と接点があり、その支援に関わる様々な団体の人たちに声をかけて、ネットワーク会議を開催しました。その結果を報告書にまとめたり、それぞれの団体が提供するプログラムの情報共有のための冊子をまとめるなど、支援者同士が繋がり情報共有がしやすい環境づくりを進めたそうです。

同時に、雇止めなどで突然路上生活になってしまう人たちを想定し、福祉の制度や公的機関と民間団体の支援内容など一冊にまとめた小冊子「路上脱出ガイド」を2009年に制作しました。

また、ホームレス状態の若者が日雇いや路上生活経験の長い年配者に比べて、相談機関に訪れる前にインターネットなどで情報にアクセスすることが多いことに着目し、Web上からもダウンロードできるようにしました。

※路上脱出ガイド http://www.bigissue.or.jp/guide/

冊子の内容は、今までホームレス経験のない方が自分で福祉や必要な生活サービスにつながり、次のステップに進めるよう、相談先などの情報をまとめてあります。現在、東京大阪など7都市でそれぞれの都市版を配布しています。

ホームレス状態の若者は助けを求められない

様々な課題を抱えてホームレス状態になる若者はなぜ支援につながらないのでしょうか。

理由の一つとして「相談する、助けを求めることへの抵抗感」があると佐野さんは言います。

原因は複数あります。「自分で何とかしたい、何とかできると考えている」「自分が悪いと思っているので支援につながろうと思わなかった」という支援を受ける事自体への考え方や、「相談したけど話を聞いてもらえなかった」「支援があるという情報を知らなかった」など、支援へのアクセスの問題などがあると言います。

このようなホームレス状態の若者にも「路上脱出ガイド」を届けたいと、様々な工夫を凝らしています。

路上での手渡しだけでなく、他の支援団体に配ってもらったり、図書館での設置協力なども進めています。また、お寺の方から「置けないか」と相談されるなど、ホームレス状態の方が普段の生活から接点がある場所で効果的に提供するよう意識しています。

また、インターネット上にpdfデータをアップするのに加え、リスティング広告などを利用して、「ホームレス」や「困った」「お金がない」などの検索にあわせて「路上脱出ガイド」の広告が出るような取り組みも進めています。

ネーミングを変えて手に取りやすいように

今年から大阪版では「路上脱出・生活SOSガイド」と名前を変えて刷新したところ、若者サポートステーションなどにも設置が進んでいます。実際に設置している団体からも、こちらのタイトルの方が手に取られる数が多い、とのフィードバックがあります。

ビッグイシューの販売の仕事など、働く場所につなげるための様々な支援を行ってきましたが、やはり、そもそも「若者をホームレスにしない」ためには、住まいを失わないための仕組みが必要だとの認識から、空き家活用などを軸にしたセーフティネットとしての「住宅政策提案書」や年収200万円以下の若者の生活状況を住まいの切り口から明らかにする「若者の住宅問題―住宅政策提案書〔調査編〕」をまとめ発表しました。

※「若者の住宅問題」「住宅政策提案書」 http://www.bigissue.or.jp/activity/info_15010802.html

この提案書は地方自治体で資料として使用され、保証人がいない若者のために行政が入居の際に保証を行う制度整備などに繋がっています。

困っている当事者への情報提供だけでなく、現場の当事者の声を聞きながら、それをまとめて政策提案を行ったり、一般市民の人たちに知ってもらうための情報発信を行っています。

また、現場により多くの方々に参加していただくためにも、スポーツを通して誰でも参加できる場の提供や、交流サロンの開催などを行っているそうです。

何よりも、困ったときに「困った」といえる仕組み、その人の話を聞いて解決方法を一緒に考えてくれる人、困っている人の力を信じてくれる人が増えることで、若者を社会で支えていけるようになると考えているとのことです。

妊娠に関する「困った」に寄り添うにんしんSOS東京

2団体目には、妊娠に関する相談と継続的な支援を提供するにんしんSOS東京の中島さんにお話いただきました。

日本は新生児の死亡率が世界で最も低く、出生後も定期的な受診の際に切れ目ない支援があるなど、母子保健体制が整っています。

しかしその反面、「妊娠したかもしれない」「妊娠したけど産むこと・育てることを決めていない」妊娠葛藤に直面する方に対する支援がなく、生まれたその日のうちの虐待死が最多などの課題があります。

にんしんSOS東京では、メールやチャットで相談を受け付け、医療・社会資源などの面から継続的に支援を行います。

匿名で相談を受け付け、徐々に顔の見える関係になっていく。社会的に孤立しやすい相談者の私生活も含めた相談の応対を行い、相談者によっては実際に会って関係機関につなぐなどの手法が特徴的だと言います。

妊娠について周りに相談できない理由

にんしんSOS東京に相談されるのは幅広い年代の方で、中にはパートナーのことで相談したい男性や、既婚でDVにあっている方やパートナーと意見が合わない方もいるそうです。

妊娠に関して友達や家族に相談できず、孤立して葛藤する背景には、「スクールカースト」「LINEで広められる」「親に心配をかけたくない」など、周囲の人間関係や親子関係の事情があります。

周囲に相談できず、ウェブ上の知恵袋サイトなどで情報を集める代わりに専門家のいる機関への相談を促すために、にんしんSOS東京では様々な工夫を行っています。

まず一つは相談窓口の認知を広める方法として、Twitterを活用している点です。

にんしんSOS東京への相談者の中でも特に若年層は、同じ境遇の女性同士がTwitter上で情報交換をして相談につながるパターンも多く見られるそうです。普段からネット経由の相談窓口を積極的に広報しています。

もう一つは、相談の話をきく姿勢です。相談者が勇気をもって窓口の門をたたいた時、「どのような一言をもらえるか」、相談員が相談者にとって安全で安心な人であるかという点が非常に大切だといいます。

相談者の中には、過去に他機関で相談歴があったり、児童相談所につながっている方もいらっしゃるそうです。

相談してくれたことへの感謝を伝える、これまでの気持ちを共感的に聞くことを通して、相談者自信の持つ力を引き出していくことを大切にしています。

より相談しやすい窓口に

相談への入り口の障壁を下げて、相談の受け皿を大きくするため、相談体制の工夫もしています。

にんしんSOS東京ではアプリを自主開発し、ネットがつながる環境であればどこからでも無料で、メールや電話での相談を可能にしています。今後はLINEも導入し、最初に相談者の基本的な情報をボットで受け答えできる仕組みも視野に入れているといいます。

また夜間の相談受付のために、相談員もオンラインで稼働しています。オンラインコールセンターのツールを使って、遠隔から相談や研修も実施できる環境を作り、様々な年齢層・職種の相談員が参加できるようにしています。

「困っている」と言ってもらうには信頼関係が必要

3団体の話が終わった後に、会場の参加者を交えて質疑応答が行われました。

震災後の被災者支援をされている参加者のお話によると、「被災者である」「困っている」という状況は、周りに同じ境遇の人が多いのでオープンに言いやすく感じるそうです。

半面、生活困窮の相談は「自己責任」とされやすいため周囲に言いづらい、そして勇気を出して「相談に行ったけど聞いてもらえなかった」「担当者がいそがしくて対応しきれなかった」という経験があると、足が遠のいてしまうという課題があると佐野さんは言います。

にんしんSOS東京に寄せられる相談者の声にも、性の悩みだから相談しにくいだけでなく「怒られるのではないか」という恐れがあると中島さんはいいます。

「相談の時にセックスという言葉をつかっても怒られない」というレベルで信頼してもらって、さらに課題の背景についても踏み込んで話を聞けるようになる必要があると考えています。

NPOだけの取り組みの限界。行政をどう動かすか?

会場から頂いた、「行政との協働をどのように行うのか」という質問に対しては、3団体ともそれぞれ違う視点からお話がありました。

にんしんSOS東京が取り組む妊娠に関する相談は、通常の行政事業であれば保健師が予算を受けて行う取り組みですが、NPOではそのような仕組みがありません。

その背景としては、国会議員など政治にかかわる人の認識と、実際の現場の仕組みの乖離があるといいます。例えば、ドイツでは法律によって国民4万人あたり1人の妊娠葛藤相談員を置くことが定められており、公的な取り組みとして妊娠葛藤相談窓口が広く認知されています。このような海外の状況を国内に共有し、インフラを作っていく必要があると考えているそうです。

ビッグイシュー基金は行政との連携も大切にしながらも、まずは現場で当事者の声を聞き、必要な支援をとどけることを重視しています。そしてその中で、集まった「声」を社会に伝えていきたいといいます。現場では見えているけれど、まだ広く社会には知られていない課題やセーフティネットのひずみを広く市民に伝えることで、誰もが安心して生きられる社会にとって本当に必要なものが何かを考えることにつながると思うからです。

OVAは、実際に2017年の自殺対策ガイドライン改定の際に全国の自治体にアプローチを行いました。ガイドラインが改定されたタイミングで、全国に資料を送った結果、協働の依頼が複数ありました。

公的な取り組みが設けられるように、声なき声問題に関しても社会に働きかけることが必要であると考えています。

イベント開催にあたって

本イベントには、普段から業務で若者支援にかかわる方や、この問題に関心のある方に広くご参加頂きました。

約40名の方にお申込み頂くなど、非常に関心が高いテーマである一方、具体的な取り組みを模索しつつ行われている現状を共有することができたかと思います。

今後OVAでは、具体的な取り組みを全国で調査・分析し、支援の現場で活用できるよう広めてまいります。

【支援機関の方へ】調査にご協力ください

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