インタビュー

性風俗で働く人への支援 ー信頼を得ることと、偏見を乗り越えることー


「『声なき声』プロジェクト」では、2018年5月末から全国の若者支援団体を対象に、支援を積極的に届けるための工夫と支援につながりにくい対象者についてのアンケート・インタビュー調査を行っています。
支援を必要としながらも支援につながっていない方に、どのように支援を届けることができるかについて考えていきたいと思っています。

今回は調査の一環として、性風俗で働く女性を対象に相談事業を行って生活課題解決のサポートを行っている、一般社団法人ホワイトハンズの坂爪さんにインタビューをさせて頂きました。

話し手:坂爪真吾さん(一般社団法人ホワイトハンズ 代表理事)
聞き手:伊藤次郎(NPO法人OVA 代表理事)

風俗業界での支援を始めたきっかけ

――坂爪さんは今、性風俗で働く女性の無料相談を行う「風テラス」で、生活課題を抱えた方への支援を行われていますが、風俗で働く方に関わるきっかけはあったのでしょうか?

坂爪:元々学生の頃から、この業界に関する研究を行っていました。当時新宿や渋谷の繁華街にたくさん存在していた店舗型性風俗店を巡って働いている方にインタビューをするなど、この領域にはずっと関心がありました。新書『性風俗のいびつな現場 (ちくま新書)』を執筆した際にもこのテーマを取り上げています。

調査を行っている中で、性風俗で働いているのだけれども思うように稼げず、多重債務や家庭問題、障害や病気を抱えて生活に困窮している方々に出会う機会がありました。福祉や法律の支援を必要としている方たちですね。

「公的な支援の網からこぼれ落ちている人々が、性風俗の世界には沢山いるのではないか」という問題意識があり、知り合いの弁護士たちとチームを作って、無店舗型性風俗店の待機部屋に伺って相談支援を行うようになりました。
今は都内では鶯谷と池袋、関西は大阪、そして新潟では新潟市と三条市でこの取り組みを行っています。

社会と支援者が持つ偏見

ーー風俗で働く方に福祉や法律の支援を提供すると、ともすると「辞められたら困る」といったように、風俗店を経営する方の利益と相反する場合もあると思いますが、どのように協働しているのですか?

坂爪:確かに一般的には、「風俗店は女性に辞めてほしくないと考えている」というイメージがあると思います。しかし実際には、経営する店長やスタッフの方が「できるだけ支援を受けてほしい」「できるだけ早く風俗を卒業してほしい」と思っているケースも多く見られます。逆に、働いている女性が辞めたくないと考えているなど、経営側とのギャップがあるケースも少なくありません。

ーーそのような実態があるのですね。「スタッフに辞められると経営側は困るはず」という偏見を私自身持っていました。

どのような課題を抱えているのか?なぜ助けを求められないのか?

ーー風俗で働く方が困っていても助けを求められない現状には、どのような理由があるのでしょうか?

坂爪:私たちが相談を受ける内容は、DV被害、生活困窮、法律問題など多岐にわたります。そのような状態にあっても助けを求められない理由の一つとして、性風俗業界はある意味で自己責任論を究極まで突き詰めた世界だから、ということが挙げられます。自分の意思と責任で、雇用契約ではなく業務委託契約(個人事業主)として、自分の体一つで稼ぎを得るという働き方なので、問題にぶつかった時に丸抱えしやすい。そして社会的な偏見も根強い。

働いている方の中にも、以前に公的な支援機関に行ったことはあるけど、「まずは風俗の仕事を辞めてから来なさい」と指導されて、そこで諦めてしまったという方もおられました。「福祉サービスの使い勝手が悪く、支援を受けられるまでの時間がかかりすぎる」等の壁にぶつかって、遠ざかってしまう方も多いです。

ーー行政の支援は申請主義ですからね。(※申請主義:利用要件を満たしていても、申請手続きを行わなければその利用は出来ないこと)仮に行政機関に行けば支援があるとわかっていても、煩雑な手続きや手間の多さが障壁になってそうですね。行政などの公的機関は、風俗で働く方をの支援をどのように行っているのですか?

坂爪:国や自治体による性風俗業従事者への支援は存在しません。そもそも性風俗業は許可制ではなく届け出制をとっています。

「不健全でいかがわしい仕事だから、行政が営業許可を出すことはできないので、営業の届け出だけは出しておくように」という世界です。そのため、法律的にもあいまいな部分が大きく、そこで働く人たちの健康や安全については、法律上はほとんど考慮されていません。

ーーそうなんですね。自殺対策の分野では自殺対策基本法があって、地方自治体の自殺対策の計画作りも義務化されています。性風俗業従事者を支援する枠組みはないのですね。

坂爪:例えばホームレスの問題は、数十年前までは治安の問題であり、路上生活者は社会的には排除の対象だった。それが多くの団体の活動や努力によって、今は福祉的支援の対象になっている。

風俗で働く人たちも、もちろん全員が福祉的支援の対象であるわけではありませんが、生活に困窮した人たちが集まりやすい世界なので、必要な人に・必要なタイミングで・必要な支援を届けられるように、国や自治体が動けるようになってほしいと思います。特に最近は、店舗型の営業からネット上の無店舗型営業に変わってきていて、働いている人や働いている場所が本当に見えづらくなっているので。

サポートが届きにくい人たちにどうアプローチするか

ーー風テラスの取り組みについてもう少し聞かせてください。どのような方法で、働いている方からの相談を受け付けているのですか?

坂爪:東京の場合は、風テラスに協力してくださっている店長の方々が、お店に在籍している女性の中から相談希望者を募ってスケジュールを組んで下さるので、指定の日に相談員が待機部屋にお邪魔して、直接お話を伺います。新潟の場合は、相談員が毎月待機部屋を訪問して、待機中の女性にアンケートを渡して回答して頂き、お困りごとを聞き出すということをしています。

流れとしては、まず相談員が待機部屋に入って、仕事を終えてホテルから帰ってきた女性の方に挨拶をしてアンケートを書いてもらう。その後で、お互い座ってくつろぎながらお話を伺うという流れですね。こちら側も店舗スタッフの一員のような形で待機部屋の雰囲気に溶け込んで、向こうも風テラスのことを何となく知っているような雰囲気から始まることが多いですね。

ーーアンケートというのは、いきなり相談だとハードルが高いから行っている工夫なのですか?

坂爪:そうですね。難しい点として、そもそも困り感があまりないというのもあります。特に新潟だと若い人が多いので、自分が具体的に何に困っているか、自覚していない人もいる。
そういった方に「なんでも相談してください」と促しても、まず相談には来ないですよね。相談員が待機部屋までお伺いして、対面でお話をしながら課題を整理していくことが必要だと思います。

アンケートに答えて頂いた方を生活困窮者自立支援の窓口につないだり、必要に応じて弁護士につないだこともあります。待機部屋でアンケートを配る方法を始めたことで、相談室で電話が鳴るのを待っているだけでは出会えない方々とつながることができました。

ーー困り感がそもそも、という方にアンケートを使って気づいてもらう効果もありそうですね。

坂爪:それはあると思います。例えば40代ぐらいの相談者の方になると、自分から相談に来られるケースが多いです。年齢的にも風俗で稼ぐことが難しくなるということや、若い人に比べて相談するハードルが下がっている=自分のことを話すスキルが高まっているからと考えられます。

あとは、特に地方の場合は、店を介さずに女性がお客さんと直接交渉を行って、本番行為や店外デートを行うケースが多いように思えます。
女性としては、子供の学費や多重債務など、稼がなければならない事情が背景にあってそういった交渉を行うのですが、高確率でトラブルになることが多いです。40代を過ぎると、そうした直接交渉を行わないとなかなか稼げない、という問題もあります。

当事者に接近する必要がある

坂爪:あとは、派遣型リフレで働く18歳~20代前半の女性に向けてマンガのリーフレットを作成・配布しています。相談というよりは、働く上での情報提供としての意味がありますが、それを見て相談の依頼をしてくださる方もいます。このリーフレットは、リフレの求人情報サイトにも掲載して頂いています。

ーーそれはすごいですね。求人サイトを通して近づこうと。このリーフレットのタイトルにも「支援」という言葉はないですし、なんとなく支援という雰囲気もありませんね。

坂爪:なるべく「支援者臭」を消す=支援に見えないようにすることは心がけています。ただ「JKビジネスで被害に遭っているあなたを支援・救済します!」と言っても、現場で働いている当事者は、そもそも自分のことを「被害者」「要支援者」だとは思っていない。「自分の意志で、この仕事で稼いでいる」というプライドを持っている人には、こうしたメッセージは全く刺さらない。

特に18,19歳ぐらいの若い人は自分から声を上げることもないですし、大人に相談することも無い。無店舗型で、さらに待機部屋が無い派遣型リフレ店の場合、そもそもどこにいるのかすらわからないので、接点を作るのが一番難しいですね。
リーフレットに関しては、求人サイトさんとしても「こうした情報はありがたい」という理由で無料で掲載してくださっています。
また、相談に来るための交通費の補助も行っています。今のところ約300件の相談の内1,2件しかないですが、少しでも相談しやすくするためですね。

ーー情報を届けたいターゲットが必ず求人サイトを見るので、障壁を下げて効果的に接触しやすい工夫だと思います。
風テラスでは、裏方の事務やドライバーなどのスタッフからも相談を受けているのが特徴だと思います。何か理由があるのでしょうか?

坂爪:まず一つに、男性スタッフも女性と似ている境遇の方が多いことがあります。職を転々としている、前科がある、家族の借金や何らかの障害・病気を持っているなどですね。

また、風テラスで最も重要なキーパーソンは、お店のスタッフです。普段一緒に働いているスタッフさんであれば、「この子、少し困っているみたい」と気づけますからね。スタッフさんが女性の困りごとを引き出して、私たちの相談につないでくれる、という流れはとても大事です。スタッフさんと女性との関係が良好なお店は、実際に相談も多くなっています。逆もしかりですね。

福祉的支援の観点から見ると、日本の性風俗産業の重要なところは、働く女性が店舗に所属しているところです。例えば海外の多くの国では、店舗ではなく個人売春がメインです。日本は店舗があって、そこに多くの女性が集まって働いているので、店舗と連携すれば支援を届けやすい。そこをしっかり活用したいと考えています。

ーー企業内のメンタルヘルス対策でも、上司が部下の不調に気づいて、支援につなげることが大事だと言われています。また自殺対策でも「ゲートキーパー」と言って、周囲の人が声をかけて話をきき、必要に応じて地域の相談窓口等につなぐ必要性が言われています。本人からのみではなく、周囲の人に働きかけるというのも大切な視点だと思います。風テラスでは様々な方法で積極的に支援を届けようとしていますね。そこまでしないと相談に来ないという現状があるのでしょうか?

坂爪:「困った時に誰かに相談する」という行為は、一見すると当たり前のように思えますが、実はそこにたどり着くまでにいくつものハードルがあります。性風俗で働く女性に限ったことではありませんが、困ったときに誰かに相談するという習慣自体がない人も少なくないので、まずは情報提供や関係づくりから始めるしかない。本当に地道に、顔を覚えてもらうというところから始める必要がありますね。

支援者も風俗で働く人への偏見を持っている

ーー坂爪さんのお話を伺っていると、私自身も初めて知る話が多々あります。支援者側も、風俗産業をよくわからず敬遠している部分もあるのかもしれません。

坂爪:福祉側が風俗産業に偏見を持っているし、風俗側も福祉に偏見を持っている現状があると思います。私たちの相談者の中にも、弁護士と聞くだけで「逮捕されるの?」と構えてしまう人もいますから。
相談の際には、バッチを外してジーンズなどのラフな格好で行く弁護士もいます。プレッシャーを与えない、支援者っぽさを消すためですね。

ーー支援支援していると、近づけないからあえてラフな格好をすることもあるのですね。今後についておききしたいのですが、風テラスでは、声をあげられていない人にどうアプローチしていくのでしょうか?

坂爪:やはり待っているだけでは何もできないので、アウトリーチが基本だと思います。そのために、様々な制度や社会資源を領域横断的に活用できるチームを組む必要がありますね。新潟ですと、県と市の生活困窮者自立相談支援事業と連携して活動を行っています。
ただそのためには、支援者が相談者を否定しないなど、ソーシャルワークの基本を抑える必要があります。性風俗という偏見の強い分野なので、支援者側の偏見を取り除くことが最優先です。

ーー確かに私たち自身にも、性風俗に対して偏見があると思います。支援の現場で相談にきても、「やめなさいよ」となることが多いでしょうし、それしか言えない支援者もいそうですね。

坂爪:風俗の世界は、支援者側から見て「支援しにくい人」「分かりづらい人」が集まっており、社会的な偏見もあります。でも、そういう領域にこそ、アウトリーチが必要です。

ーー支援を求めた時に支援者に嫌な対応をされた経験が、その後の援助要請を阻害している研究もあります。「支援者の態度」が重要だ、と。

坂爪:困ったときに、支援機関に相談したけどダメだった人はかなり多いですね。生活保護の窓口に行ったけど、風俗で働いていると打ち明けただけで怒られるとか。

そういった現状があるので、私たちでは支援者に対する研修を実施してスキルやリテラシーの向上を図っています。こういったモデルをこれから広めていきたいですね。

風俗産業も行政も巻き込む必要がある

ーー今後、取り組みの地域は拡大してきますか?またどのように取り組みの費用をまかなっているでしょうか。

坂爪:今後はさらに広い地域に展開したいですね。特に歌舞伎町や名古屋、仙台辺りを考えています。また福岡の中州には九州全体から人が集まるので、そこでも拠点を作りたいですね。
また、活動にあたって色々なお店に協力して頂ければベストですね。費用ですが、現状は個人の方のご寄付、店舗からのご寄付などが中心なので、それを広げていきたいです。

新潟ですと、県と市の生活困窮者自立相談支援事業と連携させて頂いているので、相談員の方々には業務の範囲でご協力頂いています。生活困窮者自立支援法に基づいた活動なので、新潟のようなモデルを各地で展開できれば、さらに活動を広められると考えています。

ーー新潟では行政と連携して事業をおこなっているのですね。自殺対策の場合は、行政が準拠するガイドラインが改正されて初めて新しい取り組みが始められるという流れでした。行政もトップダウンで物事が決まるので、そういった工夫は必要ですね。

坂爪:あとは、JKビジネスのスタディツアーの開催を検討しています。そういった取り組みに協力して下さる、意外とオープンな業者さんも多いので実現はできると思います。
性風俗産業を批判するのは簡単ですが、それでは何も生まれないと思います。風俗には風俗の論理と正義があるので。

ーーJKビジネスのスタディツアー・・。ともするとネーミングだけで批判が来そうですね・・。ただ、スタディツアーに福祉関係者が参加して実態を知るのはいいと思いますね。ツアーを通じて当事者と出会う。それ自体が、アウトリーチ的な側面がありますね。

坂爪:私たちが今行っている研修でも、弁護士・福祉系の支援者・風俗業界関係者の方などに多くご参加頂いています。現状だとアウトリーチは職人芸みたいになっていて、カリスマ性のある人しかできない状況なので、今後は方法を理論化・標準化して、誰でも行えるようにしたいですね。

ーーそうですね。私達もそういった職人芸をノウハウ化するために今、調査をしています。今日は貴重なお話をありがとうございました!

編集後記

坂爪さんとの話で一番感じたのは、支援者のかかわりの態度が「助けて」を阻害しているのではないかということです。背景には支援者側の「偏見」があると思います。
私も学校でソーシャルワークの勉強をしていたことがありますが、風俗に従事する人たちについて、授業のカリキュラムにはでてきませんし、話題にすら出た記憶もありません。
坂爪さんいわく、風テラスで出会う人たちも市役所などの相談窓口に行った事がある人も多いようです。そこで「風俗を辞めた方がいい」など、本人の気持ちを考えない指導的なかかわりが、いかに次の「助けて」援助要請を阻害しているか、考えさせられました。
支援につながりやすくするためには必ずしも当事者本人のみに働きかければよいのではない、ということがみえてきました。
(伊藤)

【支援機関の方へ】調査にご協力ください


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