インタビュー

「若者支援」が若者を遠ざける? ―ソーシャルワーカー資格を持つ弁護士の取り組み―


弁護士事務所と聞くと、訴訟や遺産相続、家庭関係などの法律問題を取り扱っているイメージが真っ先に思い浮かぶと思います。

今回は、弁護士でありながら社会福祉士・精神保健福祉士としても活動されている、弁護士法人ソーシャルワーカーズ千葉支所 法律事務所くらふとの安井さんにお話を伺いました。

困っている若者にどのように接しているのか、支援者の専門性のあり方についてなど、広くお話頂きました。

話し手:弁護士法人ソーシャルワーカーズ千葉支所 法律事務所くらふと 安井飛鳥さん
聞き手:NPO法人OVA 伊藤次郎

弁護士法人ソーシャルワーカーズのHP
https://swrs.jp/

 

現場で感じた福祉の必要性

ーーもともとどういった経緯で弁護士とソーシャルワーカー両方の活動をされるようになったのですか?

私はもともと保育の現場で児童福祉の仕事をしていました。その中で、子どもや家庭の抱える困難を解消するための支援をしていきたいと考えるようになり弁護士になりました。


実際に弁護士として仕事をしてみると、
子どもや家庭の困難の背景には法律問題だけでなく、様々な生活課題が複雑に影響していることがわかりました。このような生活課題に対応していくためには弁護士の専門性だけでは不十分であり、福祉の専門性が必要と考え改めてソーシャルワーカーとしての勉強をするようになりました。
現在は、弁護士とソーシャルワーカー双方の知見を活かして児童相談所や、社会的養護のアフターケア事業所といった福祉機関でも仕事をしています。

法人には私の他にも社会福祉士や精神保健福祉士等の福祉に関する専門資格を有する弁護士が複数名所属しており、法律の視点に福祉の視点を取り入れた相談対応、事務所内外のソーシャルワーカーとの連携・協働を強みとしています。

ーー実際に関わりをされるのはどのような方が多いのですか?

私が主に関わっているのは10代後半から20代前半の若者が中心です。

相談のルートは、親御さんからの相談だったり、児童相談所や地域の子ども・若者支援機関からの紹介だったり、非行で捕まった若者の刑事事件の国選弁護人として関わることもあったりと様々です。
最近では子ども・若者本人から相談を受けることも増えていて、児童養護施設在所中から関わりのあった若者や、少年院経験のある若者から相談を受けたり、Twitter経由で相談を受けることもあります。

実際に受ける相談は借金や犯罪に関わる法律相談もありますが、多くはハウジングプア(住む場所がない)で家、仕事、お金がないとか、家庭の問題で家にいたくないとか、職場の人間関係が辛いといった生活上の悩みや愚痴が中心です。
若者が抱えている問題解決そのものよりも、丁寧に話を聞くこと、緩やかなつながりを保ち続けるような関わりが求められるので福祉の相談技術がより重要となります。

 

情報が届かない、届いても信頼されない

ーー若者は困ったことがあっても周囲に相談しづらいことが多いのではないかと思います。普段若者と接していて、安井さんはどう思われますか?

自分から児童相談所等の相談機関に相談することができる若者もいますが、割合としては少ないと思います。
多くの若者はそうした相談機関に相談することが難しいか、あるいは相談することを自ら避ける傾向にあります。

また、相談を受ける側の問題として、18歳前後の年齢の子ども・若者のニーズにあった相談機関が少ないこともあげられます。
18歳までの
子ども・若者に関する相談を担当する主要相談機関として児童相談所がありますが、児童相談所は日々の虐待対応で常に忙しく、限られたリソースの中でより低年齢の子ども対応が優先されます。
その結果、18歳間近の子ども・若者の相談はどうしても手薄になりがちです。その他の相談機関も同様で、この年代の子ども・若者のニーズにあった支援制度や社会資源自体が乏しいという問題もあります。

NPO等の民間支援団体が活発に活動しているところもありますが、地域差も激しく、相談の受け皿としてはとても足りていません。

ーー若者の行動面と、そもそもの仕組み面で課題があるのですね。子ども・若者はなぜ支援につながらないのでしょうか?

そもそも誰かに相談できるということ自体が若者に伝わっていないと感じます。
若者たちから「そんな相談先があることを知らなかった」「どこにも相談できないと思っていた」という声をよく聞きます。

貧困や虐待といった困難な生活環境で暮らしていて、周囲に頼れる人もいないと、自分にはこれしかないと思いこんでしまうことがあります。

本当はもっと色々な選択肢があるのに、視野狭窄な状態に陥っていて、選択肢自体が狭まってしまい、支援情報が入りづらくなります。
更にその状態が長引くと、本人にとってそれが当たり前な状態となり、困る尺度自体が世間からズレていき、やがては困り感すら見せなくなります。

そのような状態だと誰かに相談しようという発想にならないのは当然ですよね。

ーー選択肢が少ない環境に押し込められているイメージですね。

あとは、支援者への不信感も影響していると感じます。子どもの頃から相談しても頼りにならなかった、信頼していたのに裏切られたといった、ネガティブな経験を繰り返してきている若者は、大人への強い不信感が根付いています。
そのため、支援者を名乗るもの全般に対して警戒心を抱いていることが少なくないです。

ーー相談することで状況がよい方向にいかなかった経験があると不信感が生まれますよね。

そもそも支援者だけへの不信というより、人を信頼し、頼るのが難しいという特徴があるのではないか、と。

 

大人への相談よりも子ども同士でつながる

ーー子どもたちの中には、支援者につながっている子もいます。誰にも相談できずに困っている子どももいると思いますか?

どこまでを支援者に含めるのかにもよりますが、他人とのつながりが一切なく孤立しているような子は意外に少ない印象です。

大人とつながりがなくても、友達やネット上の仲間など、何かしらの形で自分のつながりを自分で作れる子の方が多いのではと思います。
こうしたつながりは、互いに高めあう方向に働くこともあれば、逆に足を引っ張りあい、社会的には良くない方向に進んでしまうこともあるので良し悪しですが、誰にも相談できずに困っている状態とはまた違うようにも思います。

ーーそのような中で孤立している人としない人の差は何でしょうか?

大人でも子どもでも良いので、誰かしら周りに気に掛ける人がいるか、あるいは自分から誰かしらに頼れる力があるかどうかの差は大きいと思います。
このどちらもないようだと孤立の危険は高まりますね。

若者の相談に接していて一番危険に感じるのは、他人には理解されにくい内面上の悩みや、開示しにくい悩みを抱えていている人です。

本当は悩みを抱えていて誰にも相談できずにいるのに、傍から見ると普通に学校に通ったりして誰かしらとつながっているように見えてしまうので、孤立のリスクが軽視されがちです。

 

若者「支援」への違和感

ーー他の団体へのインタビューでは、若者への「支援」という言葉自体の違和感についてお話頂くことが多いです。「支援」という言葉についてどう考えていますか?

私自身、講演等では便宜上「支援」という言葉を使うこともありますが、極力「支援」という言葉を使うことは避けています。

そもそも若者のニーズに合った「支援」といえるだけのことができているのかと思い悩むことのほうが多いです。

若者たちの中にも「支援」に胸やけしている人がいます。幼い頃から守られ、支援を受け続けてきた人の中には「自分は支援されるだけの弱い存在なのか」という葛藤を抱くようになる人もいます。
そしてだんだんと支援され続けることに嫌気がさして、「支援される存在」から抜け出したいと思うようになります。
「若者を支援しよう!」という風潮自体に嫌悪感を抱いている若者は少なくないように思います。

例えばJKリフレや性風俗で働く若者の中には、支援を受けながら生活していくことが嫌で、自らそうした道を選んだ人もいます。
そこに安易に支援者臭を出して関わろうとするのは、かえって反感を買うだけでしょう。

現実では大人でも、誰かしらの助けがないと生きていけないのですから、必要に応じて「支援」を受けるように勧めることはあります。
しかし、「支援」を受けたくないという若者の気持ちも尊重しなければいけません。善意の「支援」がかえって若者の尊厳を傷つけてしまうことだってあります。

ーー若者のニーズに合わせるために、具体的に何をしているのですか?

私は本人たちが「今、欲しがっているものは何か」を徹底的に意識して、アプローチの方法をオーダーメイドするようにしています。

例えばJKリフレ(※風営法上適法な18歳以上の若者がサービス提供を行う形態)で働く若者にアプローチしようと考えて、通称「楽屋」というアウトリーチの取組を行ったことがあります。

JKリフレで働く若者は、「支援」を毛嫌いしているので、「支援」しますといってアプローチすることは難しいです。
一方で彼女たちはスマホの充電が切れると、友達や仕事の連絡手段がすべて断たれてしまうので、充電の確保は死活問題です。

そこで、スマホを充電できる場所を提供すれば支援を避けたがる彼女たちのニーズにもあい、つながりを持つことができるのではないかと考えました。実際に始めてみると予想以上にたくさんの若者とつながることができて色々な話を聞くことができました。

ーー今必要としているものを提供して、きっかけを作っているのですね。

そうです。あとは支援と思わせない雰囲気づくりも大事だと思います。
私は、事務所全体をおおよそ弁護士律事務所とは思えないような、ポップでリラックスできる雰囲気に仕立てています。

私自身が重度のアニメオタクなこともあり、アニメ関係のフィギュアやポスター等も多数並べています。こうすることで子どもや若者が親しみやすい雰囲気をつくりあげ、相談という堅苦しい雰囲気を吹き飛ばすことができます。

また、若者と接するときは、支援者にならず友達のような対等な関係を意識しています。
尊敬できる専門家、大人として関わるのではなく、子どもっぽいところ、ダメなところも多々あるいじりがいのある等身大の大人としての姿を見せることで、安心感を持ってもらうようにしています。
深刻な相談をしにきたはずの若者が、気がついたら呆れて大爆笑しているみたいなこともよくあります。

心地良い時間を過ごしてもらい、問題解決につながらなくても、気が向いたらまた話しに来ようかなと思ってもらう、そうしてつながり続けられることを大事にしています。

ーー情報や支援を積極的に届けるために、どういう考えや取り組みが必要でしょうか

情報や支援を届ける前に、まずは対象者のイメージやニーズを正確に把握することが必要でしょう。
助けよう、届けようという思いばかりが先行して、対象者のイメージやニーズ把握がぶれていると結局空回りして、有難迷惑な「支援」になりかねないです。

そのためにも、支援対象者のイメージを抽象化・固定化して理解しようとするのは非常に危険だと思います。

「JKリフレ、性風俗で働く若者=貧困で不本意に働かされている」というようなイメージがその典型ですね。JKリフレや性風俗で働く女性の中には、厳しい家庭環境から抜け出し、望まない形で働いている人や深刻な性被害を経験している人は確かにいます。

一方で先ほど述べたように、自らの選択として仕事としての誇りを持って働いている人もいますし、普通に家族仲が円満で友人にも恵まれている人もいます。働く理由も学費のため、趣味のため、生活のため、将来の夢のためと様々で、100人いれば100通りの事情があります。
アウトリーチ型の取組をするのであれば、特に支援者側の先入観や偏見にとらわれないようにして、1人1人のニーズに丁寧に向き合っていくべきでしょう。

 

支援の専門分化によって支援に隙間ができる?

ーー今後、積極的にリーチしていく対象はありますか?

既存の相談機関から見落とされやすい、こぼれ落ちてしまうような困難や、生きづらさを抱えた若者へのアプローチをしていきたいと考えていますが、特定の層の若者を対象としてリーチしていくよりも、広く漏らさずリーチしていくイメージですね。

少年院出身の若者や、JKリフレや性風俗で働く若者というと、特殊な悩みを抱えているように思われがちです。業界特有の悩みや事情は確かにありますが、彼女たちが抱えている悩みの多くは、同年代の若者が抱えているものと変わりない普通の悩みなことが多いです。

それなのに特殊なアプローチの仕方をしていかないと、そうした悩みが可視化されないことに問題を感じています。なぜ既存の相談機関ではそうした悩みが見えなくなってしまっているのか。支援者側が特殊な問題だと思いこんで見えにくくしていないかと。

一昔前と比べれば、子ども・若者向けの支援制度は充実し、対象者のニーズにあわせて様々な専門相談ができました。
一方で専門分化が進み、支援の枠組が明確になると曖昧さが失われ狭間が生じるようになります。
その結果、狭間のニーズの子ども・若者達がこぼれ落ちていってしまう。

ニーズにあわせて専門分化していくことは大事ですが、その代償として枠組からこぼれやすくなる子ども・若者のニーズを補いバランスをとっていけるような構造づくりを併せて考えてく必要があるでしょう。

ーー今、「支援」は専門分化していく方向性に感じますが、ゆえにその溝にこぼれおちる子ども・若者たちが、いるのではないか、という重要な示唆をいただきました。また安井さんのお話をきいていると若者へ「支援」という言葉を若者へ発すること自体が、逆説的ですが、「支援」を遠ざけているのではないかとも感じました。今日はお話ありがとうございました。 

 

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