福祉分野でのアウトリーチ活動の定義と意味

アウトリーチとは

アウトリーチ(Outreach)は直訳すると、「外に手を伸ばす」ことを意味します。

福祉分野では、「支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス」のことを言います。

 

従来は、相談者の日常生活の場(自宅など)に出向く訪問支援全般が、アウトリーチと表現されてきました。

近年は、少しずつ福祉分野におけるアウトリーチの定義も広がってきています。

 

主な定義

ひきこもり状態等の子ども・若者は、自ら相談機関に出向くことの難しい場合が多く、支援者が直接的に支援する方法として、訪問支援(以下「アウトリーチ」という。)が有効

(内閣府,2016)(※1)

 

受療中断者や自らの意思では受診が困難な精神障害者には、日常生活を送るうえで、生活に支障や危機的状況が生じないためのきめ細やかな訪問(アウトリーチ)や相談対応を行うことが必要とされている。

(厚生労働省,2011)(※2)

 

若者は、自発的には相談や支援につながりにくい傾向がある一方で、インターネットやSNS上で自殺をほのめかしたり、自殺の手段等を検索したりする傾向もあると言われている。

そのため、自宅への訪問や街頭での声がけ活動だけではなく、ICT(情報通信技術)も活用した若者へのアウトリーチ策を強化する。

(自殺総合対策大綱,2017)(※3)

 

サービスや援助が必要であるにもかかわらず自発的にサービスを求めようとしない人々を発見しその人々にサービスの必要性を伝え、サービス提供を伝える事。

(三品,2011)(※4)

どのようなアウトリーチ活動があるのか?

アウトリーチが行わている領域は、福祉の分野の中でも多岐にわたります。

在宅医療・往診・看護など、病気を持っていても通院が困難な方に、地域や自治体の保健師が行うこともあります。

精神保健領域ではACT(包括的地域生活支援プログラム)と呼ばれる精神障害がある方向けのアウトリーチプログラムもあります。

 

NPOや市民団体も、相談援助につなげるためのアウトリーチを実施しています。

例えば、路上でホームレス状態にある方に声をかけたり、家出している若者に向けて声をかける「夜回り活動」などが挙げられるでしょう。

韓国・ソウルでは、移動バスを拠点に展開される「動く青少年センター EXIT」の路上アウトリーチなどがあり、国内でも同様の活動が始まっています。

 

このようなアウトリーチ活動を通して、生活課題を抱えながら福祉の支援を受けていない方に情報を届け、自団体や公的機関の支援を通して生活課題を解決する取り組みが見られています。

また、ひきこもり支援や、災害対策、児童虐待予防、自殺対策など地域福祉の多様な領域で行われています。

 

outreach

 

なぜ、アウトリーチが必要なのか?

これらの活動全てに共通するのは、対象者が何らかの支援を必要としているにもかかわらず、自ら助けを求めたり、制度を申請するのが難しい状況だということです。

対象者の中には、支援に対して拒否的な態度を持つ方もおり、「接近困難事例」と表現されることもあります。

 

アウトリーチの意義は、なんらかの理由で自ら支援を求めるのが難しい人に対し、情報や支援を支援者側から積極的に届けていくことにあります。

支援が「待ち」の姿勢では、予防的関わりや早期介入が難しいです。

また既存の制度や法律では対応が困難な「制度の狭間」に陥る人もいます。

自らSOSを出せない人たちに対して、アウトリーチを通して支援の入り口を積極的に作ることが大切です。

 

自殺対策の領域では、援助要請能力が低い人たちが自殺のリスクが高い背景から、アウトリーチの必要性が国の自殺対策のガイドラインにも記載されています。

このように制度や窓口を設けて相談者が来るのを待つのではなく、「必要としていそうな人に積極的に届ける」という考え方は公的な分野でも広がりつつあります。

 

歴史と近年のアウトリーチの広がり

アウトリーチは元々、精神科や精神保健福祉分野で使われることが多い言葉でした。

「入院医療中心から地域生活中心へ」の理念の中で、精神障害者の退院促進と地域定着に向けた事業を、厚労省を中心に実施されてきた歴史が背景にあります。

このような理念のもと、精神障害者が医療を離れて地域で暮らすようになれば、障害に対するサポートや必要な情報も届きにくくなります。

誰の支援も受けられずに孤立してしまうことがないよう、積極的に支援を届けるアウトリーチ活動が促進されるきっかけとなりました。

その結果、平成23年には「精神障害者アウトリーチ推進事業」が国を挙げて展開されています。(※5)

 

2017年7月に閣議決定された自殺総合対策大綱では、若年層の自殺対策として、「ICT(情報通信技術)も活用した若者へのアウトリーチ策を強化する」が記載されました。

その後座間市における事件などをきっかけに、SNSや検索連動広告を用いたアウトリーチや、SNSを活用した相談事業(※6)などが、自殺対策のみならず、広く若者支援分野で広がることになりました。

訪問支援全般の意味で使われることが多かった「アウトリーチ」でしたが、現在では「支援者が支援が必要な人を発見し、積極的に情報や支援を届ける」という定義に広がりつつあります。

 

「支援につながっていない人に届ける」ためのアウトリーチは、まだ実践が少なく、理論も体系化されていません。

この問題の解決に向けて、ぜひ一緒に考えていきましょう。

 

引用文献

※1 精神障害者アウトリーチ推進事業の手引き – 厚生労働省 2011

※2 平成27年度「アウトリーチ(訪問支援)研修事業」報告書 内閣府 2016

※3 厚生労働省 自殺総合対策大綱 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000131022.html

※4 三品桂子(2011)「アウトリーチ支援の国際標準と新しい動向」 『精神科臨床サービス』第 11 巻 1 号,11-15.

※5 厚生労働省 精神障害者アウトリーチ推進事業の手引き(pdf) https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/dl/chiikiikou_03.pdf

※6 厚生労働省 自殺対策におけるSNS相談事業(チャット・スマホアプリ等を活用した文字による相談事業)ガイドラインの公表について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04228.html

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