インタビュー

私たちの社会にもある人身取引。「声なき声」が生まれる構造と、社会ができることとは?


ここ2,3年でアダルトビデオ強制出演問題や児童ポルノ問題のニュースを耳にした方も多いのではないでしょうか?実はこのような問題は、人身取引が強くかかわっています。人身取引という一見遠い問題について、そして社会がとるべき解決方法について、NPO法人ライトハウスの藤原さんに話を聞きました。

話し手:NPO法人ライトハウス代表 藤原志帆子さん
聞き手:NPO法人OVA 伊藤次郎

プロフィール
1981年生まれ。アメリカ合衆国のウィスコンシン州立大学に留学。在学中に人身取引問題について学び、卒業後は被害者支援団体ポラリスプロジェクト(本部・ワシントンD.C.)に勤務。2004年、日本事務所のNPO法人ポラリスプロジェクトジャパンを設立。14年からは団体名をライトハウスに改め、日本における人身取引被害の電話相談や救援、啓発や教育を目的とした講演活動等を行っている。

ライトハウスとは?
NPO法人ライトハウスは人身取引被害者支援を専門に行うNPOです。
人身取引は「搾取を目的として、暴力・脅迫・だます等の手段で自由を奪うこと」であり、ライトハウスはこの問題の解決に取り組んでいます。
http://lhj.jp/

このインタビューはNPO法人OVAが行う「声なき声」プロジェクトの調査の一部を記事にしたものです。

「人身取引」を初めて知った米国留学。見えてきた日本での現実。

ーーまずは、藤原さんが「人身取引」に取り組んだきっかけを教えてもらえますか?

藤原:私が人身取引の問題を知ったのは、アメリカに留学している2000年前後のときでした。
在学中は友人に誘われ様々なボランティアをしていましたが、卒業後は首都ワシントンDCに移り、人身取引の被害者支援団体でインターンを始めました。
その団体では、相談窓口のほか緊急保護や路上でのアウトリーチを行い、弁護士や多言語でSOSに応じられるスタッフが関わっていました。
アメリカの団体で働いている間にも何度か日本に帰ってきていましたが、日本では同じような支援を行う団体がないことを知りました。

また、アメリカで働いているときに、自分と同じ年齢の女性が騙されて日本に売られたケースや、10代のころ日本で半年間売春をさせられた女性のケースなどがあり、日本にも人身取引の問題が存在することを知りました。
海外から騙されて連れてこられて、自由を奪われて搾取される方たちが多くいることがわかり、日本に支部を作って支援活動を行うことを決めました。

ーーアメリカでの経験がベースになっているのですね。日本ではどのような活動をしてきたのですか?

藤原:最初は日本に来る外国人向けの相談支援の電話を2004年に設置しました。
当時は、フィリピンから年間約8万人¹の10~20代女性が興行ビザを取得して、半年間や1年間の期限付きで来日していました。
彼女たちの多くは「芸能活動」という名目で日本にやってきます。多くの場合、「音楽活動」や「ダンサー」として現地のブローカーに騙されて日本にやってきます。普通の接客業に就ける人もいますが、性産業や強制労働に組み込まれて、行動の自由を奪われるケースも多くあります。

直接強制売春をさせる、わかりやすい被害だけではありません。私たちが出会ったケースでは、毎月20万円支払われるはずのお給料から17万円が、来日のための借金返済・住居費・光熱費として引かれ、残りの金額も「強制貯金」させられることもありました。空腹のため、あるいは少しでも早く借金を返済し自由になるために、店に促されるまま客との買春に応じざるを得なかったのです。

このようなケースの被害者が運よく保護されても、入国管理局などによって「売春」や「不法滞在」の犯罪者として母国に強制送還される事例がほとんどでした。
適切な支援を受けられない方たちから、相談を受けて支援につなげる活動を2003年より行ってきました。

日本にいる外国人が「助けて」と言えない壁

ーー被害に遭う外国の方たちの非常に厳しい環境がイメージできました。そのような状況で、なぜ周りに助けを求めることができないのでしょうか?

藤原:理由の一つに、言葉の壁があると思います。タイやフィリピン、ミャンマーからこられる方たちが日本に来たときに、相談できる行政の窓口は基本的に日本語にしか対応していません。広報物も基本は日本語ですよね。

第三者を通じてライトハウスに連絡が来ることもありますが、私たちが日本人だと彼女たちはわかっています。同じ母国の人間が対応したとしても「オーナーと裏で通じているのではないか」と感じて、なかなか信頼感を持てないため、本人たちと話をできないことも多くあります。それまでに信頼できるような日本人に会うことも経験していないため、信頼関係を築くのが難しいのです。

ある女の子は、いつもタバコを買いに行くコンビニの店員さんに、助けてと言いたかったが、どんな反応をされるかが怖かったと言っていました。毎日会う唯一の加害者でも買春者でもない日本人にも関わらずです。

ーー言葉の壁、そこから生まれる信頼の壁は大きいですね。そういった壁を解消するために、どのような取り組みをされているのですか?

藤原:日本語と英語以外の相談に対応するために、ボランティアに協力してもらいました。タイ語が話せる日本人女性や、日本で福祉の勉強をしている韓国人留学生の方、日本に暮らすタイ人の方などが関わり、言葉のハードルを下げて相談活動を行っていました。

外国人だけの問題ではない。人身取引に巻き込まれる日本の子ども・若者。

ーー2003年当初は外国人の方の相談が中心だったかと思います。今は日本人の相談も増えているのですか?

藤原:2016年度には146人の方から相談を頂きました。騙されてアダルトビデオに出演させられたという相談だけで約100件あるなど、特定の問題の相談も増えています。
現在寄せられる相談の多くは、10代〜20代の日本人の男女からのものです。10代の子どもたちの相談でも、売春させられている、自分の写真や動画を撮られて流されているなどの被害も寄せられています。
被害者たちが自分で相談先を見つけるのは非常に難しいのが現状です。塾の先生が子どもに教えてくれたり、Twitterでのつぶやきにライトハウスを紹介してくれたりといった風に伝わることもあります。

ーー「子ども・若者たちが自分で相談できない」というのは何が原因なのでしょうか?

藤原:共通する心理として、「自分が悪い」と思ってしまうことがまずあります。大人に言葉巧みに誘われて性的な被害を受けても、加害者に「あなたも共犯者だから」「人に言ったらあなたも捕まる」などと言われて言い出せず、抱えこんでしまうということが、特に子どもたちには多くあります。

また、子どもたちは社会の価値観を自分たちの価値観に反映しています。盗撮や痴漢、SNS上でのセクハラや自画撮りの要求など、普段から自分の体に金銭的な価値がつけられていることを経験として毎日感じています。「体を売った自分の自己責任」という意識を持っていることもあります。

家庭で虐待や暴力などの問題を抱えて、安全のために家から逃げざるを得ず、性産業にかかわっていき、大人と社会への不信感を強めていくこともあります。

ーー心理的なハードルや社会の価値観が大きく影響しているのですね。そのような子ども・若者の「自分で相談できない」をどのように乗り越えているのですか?

藤原:まずはこちらからハードルを下げることを重視しています。電話は若者にとってはすでに馴染みが薄いので、普段から使っているツールを使うことが一番大事ですね。現在は電話・メールだけでなく、LINE相談と専用のチャットアプリを使った相談も受け付けており、LINE相談を開始したことで相談が急激に増えました。
相談者の使うツールに合わせることが大切だと考えており、2009年ごろにはmixiから多くの相談を受け付けていたということもあります。

声をあげられない男性の性被害という問題

ーーライトハウスでは女性だけでなく男性の相談も受け付けているとのことですが、相談の特徴などはありますか?

藤原:例えば、今一番多いAV出演強要に関する相談の約20分の1が男性からのものです。女性の相談と大きく違うことは、比較的口数が少ないこと、そして社会に男性向けの性暴力の相談窓口がほとんどないことから、相談していいのかどうかを非常に悩まれたという方が多いということです。

「男性は性被害に遭わない」という社会的な思い込みによって、本人は相談窓口に行きづらくなります。

ーー社会的な価値観が反映されているということですね。

藤原:はい。社会の理解がまだ広まっておらず、女性の場合もありますが、警察や弁護士などの相談窓口での対応が適切でないことも多くあります。ライトハウスでは現在若い男性の相談員や、60代位までの女性の相談員など、様々なタイプの相談員を設けることで、本人の希望に応じてなるべく話しやすい環境を整えることができています。

社会が「声なき声」を知れば「助けて」と言いやすい社会になる

ーーライトハウスは人身取引や性被害の理解促進のマンガを作り、それが台湾でも発行されたと聞きました。このマンガについて詳しく教えてもらえますか?

藤原:はい。このマンガは、子どもたちにトラブルに遭った時の対処を伝えるために作りました。自分自身や、自分の周りでこういうことが起こっていても、解決方法があるということを伝えています。

周りの大人全員が味方になってくれるとは限らない。でも、10人大人がいたら3人はあなたを本気で助けてくれるから、勇気を出してみてというメッセージを込めています。

自分の性が商品化されているというショッキングな内容ではありますが、子どもたちだけでなく、大人からの反響も多くあります。図書館で読んで相談してくれた子どもだけではなく、「子どものころに読んでいれば」という感想をくれた被害者の方もたくさんいます。

ーー漫画なら子どもでも読みやすいですよね。子ども達にはそういった問題を抱えた時に、相談することでこういった解決方法があると伝える事ができますし、大人達も子どもたちが問題を抱えている事に気づきやすくなり、子ども達も結果的に「助けて」を言いやすくなるかもしれませんね。

藤原:そうですね。非常に言い出しにくい問題であることを理解していただき、そして社会が被害者への態度を変えることで「声なき声」の解決につながると思います。

1.財団法人入管協会『平成 14 年 出入国管理関係統計概要』「 第5表 」
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/kosasaki18.pdf p.151参照

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