インタビュー

「助けて」を阻む社会の障壁とは?-研究から見える啓発のコツ-


樫原潤 先生

「『声なき声』プロジェクト」では、2018年5月末から全国の若者支援団体を対象に、支援を積極的に届けるための工夫と支援につながりにくい対象者についてのアンケート・インタビュー調査を行います。支援を必要としながらも支援につながっていない方に、どのように支援を届けることができるかについて調査を行います。

調査実施の前に、マーケティング、援助要請心理学(「助けて」と言えない心理学)、スティグマ(社会的偏見・負のレッテル)の3つの分野の専門家にヒアリングを行い、学術的な知見から調査の方針や内容を検討しています。

今回は、「助けて」と言えない心理とスティグマの関係について第一線で研究されている、樫原潤先生にお話を伺いました。

話し手:樫原潤 先生(日本大学文理学部 / 日本学術振興会特別研究員PD)
聞き手:伊藤次郎(NPO法人OVA 代表理事)

相談につながらない現状と、行動を促すためのメッセージの伝え方

――本日は、援助要請心理学とスティグマに関して研究をされている樫原先生に、その研究や心理相談室での臨床のご経験も含めて色々と教えて頂ければと思います。

OVAではオンラインから自殺に追い込まれている若者の相談を受けていますが、周囲に相談できずに自殺を考えるほど追い込まれ、複数の問題を複雑に抱えて圧倒されている人が多いのが現状です。より問題が複雑化する手前の段階で、支援者側から支援を届けるという視点の必要性を常々感じています。

 

樫原:相談者目線からみて、「助けて」と言いたい時にどこに行けばいいのか分からないということが想定されますね。そもそもそのような人たちは、「困ったときは専門家に相談する」ということを思いつかないのかもしれません。

またそういう方たちが、相談を促すメッセージを見たときに内容が偏るとよくないんでしょうね。例えば、心理相談は「怖いところじゃないですよ」「気軽に来てください」とただ言うだけで、果たして意味があるのかなと。

 

――メッセージの伝え方も難しいですよね。健康食品のように「飲んだら痩せますよ」といったアピールを積極的に行うのも違うと思います。

 

樫原:確かに誇大広告のようにするのは違うと思うんですが、「心理相談に行ってどういう効果が見込めます」という情報も示すべきだと思うんです。行った先に何が待っているかわからないのでは、やはり「勇気を出して相談しよう」とは思いづらいのではないでしょうか。


――「信頼感」という問題もありますよね。支援者がどのようなメッセージを発信して、支援への障壁がどのように軽減されるかということを、現場で検証する必要があると思います。

 

樫原:そもそも日本では、この「なぜ助けてと言えないのか」という障壁の部分の研究をしている人が海外に比べて少ないのが現状です。現場での検証がすすんでいないとも言えます。

障壁を下げるというところで日本と海外を比べて違うなと思うのは、日本だとCMや自殺対策月間に電車のつり革に広告を貼るといったような、情報を投げかければそれでOKという感じがあります。比べてイギリスでは、Time to Changeという精神障害に対するアンチスティグマキャンペーンがあって、当事者や支援者と触れ合えるイベントが開催されています。当事者や支援者の顔を実際に見ながら話をして、自分の抱いている固定のイメージとは違うと思えることで、偏見が薄らぐ場合があると報告されています。

一般の方から見た臨床心理士や精神科医のイメージも「よくわからない、怪しげな人」といったものかもしれません。「密室で白衣を着た人」というイメージかもしれませんが、実際に会ってみると、「(お堅くない)普通の人がやってくれてるんだな」と思えるのではないでしょうか。医療機関や相談機関への敷居が高いと感じるのは、相談に行った先に何があるのかイメージができないことが大きいのではないかと思います。また、偏ったイメージを持ったまま相談に行ったがために、期待とずれたことを支援者に言われてしまい、「もう相談したくないな」と思ってしまう人も存外多いのではないかと思います。

社会的なイメージを変える方法 ー研究が進む反ステレオタイプ法ー

――先生の論文の中に社会的な先入観(ステレオタイプ)を解消するための「反ステレオタイプ法」についての話があったと思うのですが、どういったものか説明していただけますか?

 

樫原:世間的なうつ病へのイメージの一つとして、「うつ病は心の弱い人、暗い人がなる」というイメージがあるかもしれません。しかし、うつ病といっても様々であり、また、誰にとっても身近にあることです。「本当はそうじゃなくて、うつ病といっても多様なんだ、自分にも接点があるんだ」ということに触れてもらうことで、イメージを変えてもらうことを目指します。

例えば、もともと明るかったけどうつ病になったという人の事例を紹介しつつ、その人の普段の生活について想像を膨らませてみましょう、というワークを行います。そうすると、今まで自分が持っていた「うつ病になる人」のイメージが、より身近な人に変わっていくんですね。

 

――元あるイメージと逆の事例を出して説明する、ディスカッションすることでイメージが変わる効果がありそうですね。

 

樫原:そうですね。特に海外ではこういった偏見やマイナスイメージを払しょくする研究が進んでいます。背景として、女性差別や黒人差別の問題が特に大きいと思いますね。こういった問題が元々あるからこそ、多くの学者が取り組んで研究が進むという背景があります。

スティグマ(負のレッテル)とその乗り越え方について

――例えばインターネットで生活保護について調べていると、掲示板などに心ない生活保護バッシングが書いてあったりします。それを読んでいるとその偏見が自分の中に取り込まれて、生活保護を受けようとしている自分を責めてしまう。誰もが生活保護を受ける権利があるにも関わらず、結果的に生活保護を受けることに抵抗を示す方に何度も出会っています。こういった社会的なスティグマ(負のレッテル)に満ちた情報に触れているうちに、そのスティグマが自分自身に取り込まれ(内在化され)、自分を責めてしまって支援が求められない人に、どう支援を届けられるのでしょうか。

 

樫原:支援につなげるためには、当事者だけでなく社会に働きかけてスティグマを軽減していく必要があると思います。当事者の方の中には、「自分なんてダメだ…」ということを口にする人もいるかもしれません。支援者目線では、「いやいや、ダメだなんて自己卑下することないですよ」と声をかけたくなるところです。しかし、スティグマ研究の観点からすると、「自分なんてダメだ…」と思ってしまうのも無理はないと考えられます。現実生活で冷たい目・厳しい目にさらされる恐れが実際にある、ということを抜きにしたまま、支援者側が「そんなことないですよ」と声をかけても、そんなに響かないと思うんですよね。

 

――:例えば、先ほどの事例でいえば、生活保護についての説明をするのはどうでしょうか。「こういう状況は誰にでも起こりうることなんだ」「私たちが助け合っていくための制度なんですよ」ということをHPなどに載せるのは効果がありそうですか

 

樫原:それが当事者にぐっと刺さるかというと微妙かもしれませんね。「制度としての事実説明をしている」というだけにしか映らないような気がします。

臨床の現場から思ったことは、その人のつらさを率直に理解してもらえた経験が必要ではないかということです。「社会には冷ややかな視線を向ける人もいる」という現実を認めた上で、「あれこれ言う人もいるけれど、私は味方だよ」と寄り添ってくれる人がいるといいのではないでしょうか。

例えば私が相談室で担当したクライエントでは、いじめにあっている学生もいました。自分のことを「勉強もスポーツも出来なくて価値がない」と思っている子たちですね。そういう子たちに、すぐ「そんなことはないよ」とは私からは言えません。学校がすべて、勉強やスポーツによって人の価値は決まる、という世界をその子たちは実際に生きていると思うので。まずは「そう思うんだね」「苦しいよね」と、その子を受け止める。そのうえで、「でもそれだけではないあなたの価値」を伝えていくということをしています。

思い付きですけど、悩みの渦中にいる人が「自分はダメだ」と思うところから「そうじゃないんだ」と思えるようになる過程において、似たような問題を抱えたけれどもそこから立ち直った人の姿を見ることには意義があると思います。

例えば芸能人で、「でんぱ組.inc」というアイドルグループがあります。彼女たちは引きこもりやいじめを経験するなど、「社会になじめない」という感覚を抱いてきた人たちなのですが、「マイナスからでも、なんとか立ち上がってやってるんだ」というのをストレートに歌った曲(W.W.D.)で火がついたんですね。

彼女たちのTwitterのリプライなどでも、「勇気が出た」「学校に行けてないけど好きなことをしてみようと思う」などの前向きなコメントが見られています。

悩みの渦中にいる人にとっては、ずっときらびやかな道を歩んだ人から「人生に価値があるよ」と言われるよりも、うまくいかない過去を経験していまも戦っている人から言われる方が、励みになるのではないでしょうか。

支援者が取るスタンスで相談のしやすさが変わる?

――支援の現場で考えると、支援者/非支援者の関係性が見えると、支援に抵抗を示す方もいると思います。支援者側が、当事者に「私たちはこれだけ実績があるNPOですよ」と出すようなことが、望ましくない場合もあるかもしれません。NPOでは意図的に自分を支援者として見せないことで障壁を下げていると例も見られます。

 

樫原:そういう点では、臨床の時の自分もそうかもしれません。面接の時には必ず、ジャケットは着ないですし、スーツはもってのほかと考えています。専門家ぶってもしょうがないのではと。「私はあなたを助けます、支援者の立場から接します」というメッセージが伝わると、相談者は相談しにくいのではと思います。

 

――相談する人は痛みを感じている人ですものね。自分の痛みを理解してもらえそうなのか相談者は無意識的に感じとる。「私は支援をするプロです」という見せ方をすると、「この人は経験していない私の痛みをわかってくれるだろうか」と相談しづらい場合もあるかもしれませんね。

 

樫原:「この人ならわかってくれるのでは」という感覚は、やはり人同士の生のやり取りの中で湧き上がるもので、研究や数値だけでは捉えきれないものだと思います。「私もこの人の痛みをいくらかわかる」とか、「この人は人の痛みをいくらかわかる支援者だな」という実際の相互交流を通して、障壁は下がっていくのかなと思います。

 

――今日は「助けて」を阻んでいる社会的な偏見についてとその払っしょくする方法について、貴重なお話をきかせていただきました。ありがとうございました!

編集後記

スティグマと援助要請心理学の研究をされている樫原潤先生の言葉は多く示唆に富んでいました。
「啓発」は様々な領域で活発に行われています。今回の話で感じたのは、まずはその啓発を行う際に、どういったスティグマを払拭するのかを目的を決める必要があるということです。
その上で、スティグマと思われる反対のケースを表示することで参加者のスティグマを変える事ができるということ、また当事者と直接的にコミュニケーションすることでスティグマを軽減できるというのは、社会課題に取り組むNPOや行政機関が参考にできる貴重な知見でした。(伊藤)

参考:樫原潤 先生 公式HP https://junkashihara.wixsite.com/psychology

支援者の方向けのアンケートにご協力ください!


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA